■第7回 「キクのおはなし」 | |
キクは皇室の紋章にもなっていて、日本を代表する花の一つですが、もともと日本原産のものではありません。現在栽培されているキクは中国で5世紀ごろに生まれたと考えられています。中国ではキクは古くからの薬用植物で、不老長寿のシンボルとされてきました。陰暦の9月9日に長寿を祝う「重陽の節句」では菊酒が飲まれます。 日本には奈良時代の末期から平安時代はじめに渡来し、江戸時代以降各地で独自の品種改良が行われた結果、外国には見られない特色のあるさまざまな品種ができました。当初上流階級の手にあったキクが一般庶民に広がったのは江戸時代後期で、それから約50年の間に園芸品種は飛躍的に発展し、現在見られる品種や栽培様式はほとんどがこの時代にできあがっています。 |
厚物菊。日本のキクの中で最も代表的で豪華な花型。多いものでは700枚もの花弁を持つ。 |
江戸時代に発展したキク文化は、多くの品種が育成されたことばかりではなく、栽培方法の多様さが、ほかの花には見られない特色といえます。菊人形を始め、大菊の花壇、千輪仕立、懸崖など、いろいろな仕立て方がこの時代に開発され、秋には各地で菊花展が開かれて、大衆的な行楽の対象となり、これは現在にも引き継がれています。 ヨーロッパでは、1861年に日本のキクの品種がロンドンに送られたことから19世紀末にキク・ブームが起こり、この時代に多様な品種ができていました。中国にも長い歴史の墓で独自の品種が発達していて、それらを栽培して楽しむ人も多くなっています。 |
管物菊と一文字菊を組み合わせた花壇。花型と花色の配列をくり返す、伝統的な様式に則ったもの。 |
11月に入ると各地で開かれる菊花展で見られるような、さまざまな仕立て方で美しさを競うキクはもっとも日本的なもののひとつで、実用的な「切花菊」に対して「観賞菊」と呼ばれて区別されています。観賞菊は花の大きさと形によって細かく分類されています。 大菊は花の直径が18cm以上のものをいい、花の形によって、多いものでは700個もの花弁が高く盛り上がって豪華な花容を持つ「厚物」、花弁が細く管状に巻いて咲く「管物」、外側の花弁だけが大きく幅広く発達した「一文字菊」などに分けられ、その中にたくさんの品種があります。「管物」は管の太さによってさらに「太管」、「細管」、「針管」などと呼ばれています。また、品種は少ないながら、各地方で発達した独自の花容を持つグループもあり、青森の「掴み菊」、岐阜の「美濃菊」などが有名です。 |
代表的な中菊の江戸菊。江戸を中心に発達したもので、「狂い菊」とも呼ばれる。 |
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