三輪先生のガーデニングABC
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  4. 第21回 お正月を飾るフクジュソウ

■第21回 「お正月を飾るフクジュソウ」

 フクジュソウは正月に飾るめでたい花として、古くから親しまれてきました。以前は年末の園芸店や花屋の店先には、松竹梅といっしょに平鉢に寄せ植えされたものや、指先ほどのふっくらとした芽を二つ、三つあわせて、たくさんの太い根を束ねてミズゴケで巻いた苗などがたくさん並んでいたものです。江戸時代の書物にも鉢に植えて正月の祝いものとしたことが述べられています。元日草、朔日草、賀正草、報春花など新春にちなんだたくさんの別名も記録に残されています。華やかな洋花の氾らんで、こういった日本古来の花はあまり顧みられなくなっていましたが、最近はまたあちこちで見かけるようになって、少し見直されてきているように思います。
 江戸時代は世界に誇りうる日本独自の園芸文化が花開き、いろいろな園芸植物の品種が飛躍的に発展した時代で、フクジュソウについても当時の園芸書には、同種異名も多かったとはいえ、168もの品種が記録されていて、その隆盛ぶりがうかがえます。しかし残念なことに、そのほとんどは大正時代以降に絶滅し、かなり最近まで埼玉県下でその一部が受け継がれ保存されていましたが、現在ではそれらもほとんど散逸してしまったということです。日本ではこういった生きた文化遺産を保存していくシステムがまったくといっていいほどできていず、失われるままに放置されているのが現状です。
藤原岳のフクジュソウの自生
藤原岳のフクジュソウの自生。有名な群生地だが、盗掘によって近年激減している。
ミチノクフクジュソウ(Adonis multiflora)
近年の研究によって新しく独立した種として認められたミチノクフクジュソウ(Adonis multiflora)。花弁とがく片の長さの違いや染色体数などで区別される。

 フクジュソウは日本、朝鮮半島、中国東北部、シベリアなどの北東アジアに分布していて、ほとんどが落葉樹林の下草として生育しています。日本では全国の山間地に自生地があり、北陸や東北に多く、北海道では平地にも見られます。東海地方にはあまり自生がなく、静岡県では知られていません。比較的手近なところでは鈴鹿山系の藤原岳が群生地として有名です。
 フクジュソウと呼ばれる植物は長い間、日本やアジアに自生するものがすべて同じ1種と考えられてきましたが、最近の研究では日本に自生するものだけでも4種あることが明らかになっています。もちろん、長い間1種と考えられていたものですから、見た目はとてもよく似ていて、注意して比較してみないとその違いは分かりにくいかも知れません。
 平地では早いところでは2月半ばぐらいに落ち葉の間から太い芽を地表に伸ばし、径4cmぐらいの輝くような黄金色の花を咲かせます。花が咲き始めるころには高さも10cm足らずですが、その後どんどん伸びてニンジンのような葉を大きく広げ、30cmぐらいにもなって、花が咲いている姿しか見ていない人はびっくりするぐらい大きく茂りますが、5月にはコンペイトウのような実をつけて、落葉樹林が一面の緑に覆われる6月にはもう葉が枯れて、地上から姿を消してしまいます。
 フクジュソウのほか、カタクリ、セツブンソウ、アマナなど、早春に花を咲かせる植物の中には、このように春の短い期間に花を咲かせ実を結んで、そのあと一年の大半を土の中で過ごすような生育をするものがたくさんあって、このような植物を英語で「スプリング・エフェメラル」と呼んでいます。「エフェメラル」というのは「短命の」とか「はかない」という意味で、スプリング・エフェメラルを日本語では「春植物」と訳していますが、あまり定着していません。

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