三輪先生のガーデニングABC
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■第31回 「嵐ヶ丘」を彩るカルーナ

第31回 「嵐ヶ丘」を彩るカルーナ
 英文学の名作、エミリー・ブロンテの「嵐ヶ丘」はお読みになった方も多いと思います。この舞台になったイギリス、ヨークシャーのハワース郊外の高原が一面紫色に染まる夏のシーズンには、日本からも大勢のブロンテ・ファンや観光客が訪れているようです。
 夏から秋の初めにかけて小さな紫色の花で荒野を埋めつくすこの植物は、日本ではなぜかエリカだと思われていて、多くの本やガイドブックにもそう書かれています。このことは日本人の意識の中にはかなり深く浸透していて、園芸の専門家でさえ、そう思いこんでいる人が少なくありません。
スコットランドの原野を紫色のじゅうたんで覆う、カルーナ・ブルガリス この植物はエリカに近縁ではありますが、まったく別の、学名をカルーナ・ブルガリス(Calluna vulgaris)という植物です。植物事典などを見ると「ギョリュウモドキ」とか「ハイデソウ」などという和名が載っていますが、ほとんど使われていません。英名はヘザー(heather)で、これが最もふつうに使われています。ヒース(heath)という呼び名も日本ではよく使われますし、英和辞典などにもこの植物の英名として載っていますが、現実にはイギリスでこの植物の呼び名として使われることはほとんどないようです。多くのイギリス人にとって、ヒースということばは、植物の種類ではなく、カルーナなどの低木がびっしりと生い茂る荒れ地のイメージでしかない、といいます。

 カルーナ属はエリカと同じツツジ科の植物で、ブルガリス一種しかありません。北ヨーロッパではごくありふれた植物で、日当たりのいい酸性土壌の荒れ地であれば土地の乾湿などにかかわらずよく繁茂して、広大な土地を占拠している光景をあちこちで目にすることができます。ドイツ北部ハンブルグ近郊のリューネブルガー・ハイデはこのようなところを積極的に保護して観光資源として活用し、日本ではやはりエリカとかヒースとして紹介されています。

スコットランド民謡で知られるロモンド湖畔に咲くカルーナ 「嵐ヶ丘」の舞台でもそうですが、カルーナが繁茂している土地では、この植物は人の生活と密接に結びついていて、さまざまに利用されてきた歴史があります。燃料、水を濾過するフィルタ、ベッドなどの詰め物、屋根葺き材料、家畜の敷き草、ロープの材料、ほうきなどに広く使われ、属名のCallunaは「掃く」を意味するギリシャ語に語源があるそうです。また、花は優れた蜜源としても知られ、またこのような原野は羊の放牧や鹿、雷鳥などの狩猟場としても活用されてきました。
 生活の近代化に伴って、このような利用は少なくなっていますが、北欧の人々にとっては代表的な原風景の一つであり、観光資源としての利用開発や植生の保護の動きが各地で活発になっているようです。
Bloom Field
株式会社アイ・アンド・プラス Bloom Field事業部