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植物の一生の始まりはご存じのとおり種子、すなわちタネです。もちろん、実際に植物を育てるのには、普通タネまきなどをせず、株分けやさし木などで苗を育てることから始める植物もたくさんありますが、植物本来の姿としては、タネが出発点といっていいでしょう。ですから、植物を育てる基本はタネまきにある、といっても過言ではないと思っていますが、最近は住宅事情や時代的な背景もあって、タネまきをしない園芸家が多くなっているのは残念なことです。
タネから植物を育てることにはいろいろな楽しみがあります。小さなタネが芽を出して双葉を広げ、大きく育ってやがて花を咲かせる。その過程を身近で観察できることが、まず一つの大きな楽しみです。これは人間がだれでも多かれ少なかれ持っている、自然な感覚だと思います。美しく咲いた花やきれいな葉を並べることだけが、園芸の楽しみではないはずです。 |
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もうひとつ、タネから育てる楽しみの大きなものは、新しい、今までのものとは違う性質を持った、大げさな言い方をすれば自分しか持っていない、新しい花の誕生への期待です。園芸植物として改良の進んだ種類の多くは、さまざまな原種からの遺伝子が複雑に組み合わさっていて、その結果として花の色や大きさ、葉の形や模様、草丈の高低など外観的な性質が決まっています。このような植物は受精が行われてタネができるときに、遺伝子の組み合わせが変わりますから、それに伴ってタネから育った次の世代は、親とは違った性質を表すようになります。 |
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毎年タネをまいて育てる「一年草」の場合は、まいたタネからどんな花が咲くか分からないようでは実用上困るので、何世代もかけて遺伝子の組み合わせを絞り込み、同じ性質を持ったそろった苗ができるように、遺伝的に「固定」するということが行われて一つの「品種」ができあがり、ふつうはそのタネが売られています。 ですから、日本の種苗会社のカタログに載っていたり、絵袋詰めで園芸店に並んでいるようなタネは、まいてできた苗がどれも同じ花を咲かせます。つまり、どんな花が咲くか、タネをまく前から分かっているわけです。畑やハウスで栽培される作物も同様です。それでなくては生産農家は困ります。 |
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一方、樹木類や宿根草、球根植物のように、ふつうはタネから育てることをせず、さし木、株分け、分球などによって繁殖する植物ではこういう必要がなく、多くの品種は遺伝的に固定されていませんから、このような植物にできたタネは、一粒一粒が違った遺伝子の組み合わせを持っています。 |
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