徳原真人のガーデニングABC
  1. トップページ  >  
  2. ガーデニングABC  >  
  3. 徳原真人のガーデニングABC  >  
  4. 第42回 デザインも自然に学べ
ガーデニングABC

 第42回 デザインも自然に学べ

徳原真人

今回から私、徳原真人がこのコラムを担当します。大きな職業的括りで言うと造園家です。十数年前より花のイベントやアトリウムの植栽、展示設計などを手掛けてきた事から、自分では植栽デザイナーと称しています。当然一般的な家庭の庭の設計・監修なども行います。



詳細プロフィール

このコラムの中では、主に庭やコンテナに関する魅力的なガーデニングを行うためには、植栽の面でどこに注意すべきかについて、段階的にお話ししていきたいと思います。
書店に売られているガーデニングの本を見ると、結果(仕上がり)としての写真とわずかな解説が載っているだけで、どんな考え方で、どの様な手順で作ったかという説明が少ないことに気付きます。また、植物個々の説明はあっても、どの植物とどの植物の相性がよいのか、どんな組み合わせが魅力的なのかについての説明は本当に少ないようです。
しかし、これらの植栽のデザインについて、短い言葉で簡潔にお伝えすることは不可能です。デザインとは、植物が持つ特性と使い勝手などの機能性や全体のイメージなどのいろいろな要素を多面にまとめ上げた結果であるからです。
これから、いろいろな側面から植栽デザインを知っていただき、日常のガーデニングの参考としていただければ幸いです。

広い庭を作るときの植栽の詰め方とひと抱えほどのコンテナづくりの手順は同じだと考えています。私の印象としては、広い庭のデザインをするより、直径40cmくらいの鉢の中だけで表現する方が制約条件が多くて、むしろ難しいとさえ感じることが多いです。
すなわち小さな鉢の中だけでスモールワールドを形成するためには、余計なものを削ぎ落とさなければならないからです。
コンテナを作ろうとする目的、すなわち制作テーマによって、植物材料を選び出す基準を決めています。つまり、設定したテーマのイメージに選択した植物が如何に居心地よく納まっているかと言うことです。
ガーデニングや庭づくりの植栽は、ただ美しければよいというわけでなく、利用の目的に合った機能性を有しているかどうかが重要です。一番わかり易い例が、部屋の中を覗かれない為の目隠し植栽です。
庭造りやコンテナガーデニングを行う時、目的によって次の5つタイプに分けられると思います。

寄せ植えやガーデニングにおける植栽の考え方

  • ・機能的植栽(目隠し植栽や西陽除けの植栽など)
  • ・価値のある植物を手近に置く(珍しい植物とか美しい花)
  • ・自然のものを凝縮したり、自然の一部を切り取って置き換える
  • ・身近になかったものへのあこがれ(イングリッシュガーデン、トロピカルガーデン)
  • ・象徴としての植栽(子供の誕生を祝った記念樹など)

少し理屈っぽい話になってしまいました。しかし、ひと通りのガーデニングを経験した方が、さらに次なる良いものを作ろうとする時、これらの条件を整理しながら作業していく事が上達の第一歩だと思います。

今回は秋という時期に、自然の秋らしい風景や秋に開花する植物を目のあたりにした時、どの様な手順でコンテナを制作していくかについて説明します。(上記、植栽の考え方)

右の写真(pho.1)は、里山で見かけるそば畑の風景です。実際にドライブをしていてこの風景に出合うと、里山の雑木林を背景として、この白いそばの花だけで美しいと感じ、かつ、十分に癒される風景です。
しかし、観光やドライブの時にこの風景を見ることは可能でも、これを日常のガーデニングの中に引き込んでくることは大変上級なテクニックを必要とします。
つまり、松やススキの単品を鉢の中に縮小して引き込んでくる盆栽の技術がそれです。盆栽は材料の品質と納め方の技術がぶれてしまうと、似て非なるものになってしまいます。
Pho.1 秋のそば畑の風景
Pho.1 秋のそば畑の風景
Pho.2 哀愁を誘うコスモスとそば畑の風景
Pho.2 哀愁を誘うコスモスとそば畑の風景
左の写真(pho.2)は、このそば畑の手前にコスモスが入る場所から撮影しています。コスモスと黄金色に染まった稲穂を加えた風景は、典型的な日本の秋の風景です。
コスモスは本来コロラド州から中米に起源をもつ植物です。しかし、日本で品種改良が加えられている間に、すっかり日本の植物と思っている方が多いと思います。40代以後の方々は、ここに「秋桜」のCDが流れて来ようものなら、無条件にこれは「日本の秋」だと思うでしょう。
実は、ここにデザインのヒントがあります。
清楚なそばの花と秋空に似合うコスモスが寄り添った時、少々哀愁を帯びたデザインが生まれます。
この時に、同じような花型のコスモス‘イエローガーデン’やウィンターコスモス(ビデンス)などの黄味を加えると、哀愁というよりは小春日和的な温かさを感じます。
つまり、同じ種類の植物を使っても、花の色彩によって微妙にテイストが変わるということです。この形態と色彩の選択によって、様々なデザインをコントロールすることが可能です。

秋といえば、やはり「実りの秋」です。他の季節にはない特徴で赤、黄、茶色、きつね色、紫などの色を大胆に加えると一気に秋色に変身します。
右の写真(pho.3)は、修善寺の本堂の前に展示した大鉢のコンテナです。
10月〜11月上旬の実りの秋を表現したもので、実ものの植物を中心に寄せ植えをしたものです。秋も深まるとぐっと使える植物が少なくなると同時に、紫色の花が主流となってくるため赤や黄色の実は実り感を演出すためにとても有効です。当然本堂の前なので中心には、マツ(ジャノメマツ)を用いています。
Pho.3 実ものの木本類を多く用いた秋のコンテナ
Pho.3 実ものの木本類を多く用いた秋のコンテナ
Pho.4 野趣味のある草本だけで構成した草のコンテナ
Pho.4 野趣味のある草本だけで構成した草のコンテナ
左の写真(pho.4)は、本堂から一段下った境内の一角に配置した大鉢のコンテナです。
造園には、真・行・草というスタイルを表すことばがあります。本堂前が真のスタイルとすると、境内の隅に置かれたコンテナは、ちょっと肩の力抜いた草のスタイルが似合うはずです。
使用する植物材料は、その場の雰囲気や場所の格付け及び自然観などにあった植物を選ぶことがとても大切です。
今では、ほとんど見かけなくなりましたが、良くない例として先程の写真(pho.2)の様な田園風景の中にサルビア スプレンテンス(赤いサルビア)やマリーゴールドが同居している風景を昔はよく見かけたものです。
里山をよく観察すると、クヌギやコナラ、サクラなどの雑木林の林縁にはマユミやムラサキシキブを見かけることができます。
右の写真(pho.5)は秋の里山に出現するだろうと考えられる植物を半坪程度の箱の中に押し込めた、まさに箱庭です。
林や林縁、湿気のある谷戸地などを狭い空間の中にジオラマ的に押し込めたものです。この様な植生は実際には存在しないのですが、里山の典型的な植物をデフォルメしたり、切り取って押し込めようとした作品です。
Pho.5 秋の里山を表現した箱庭型のコンテナ
Pho.5 秋の里山を表現した箱庭型のコンテナ
Pho.6 秋の野辺山野畦道の風景を表現したコンテナ
Pho.6 秋の野辺山野畦道の風景を表現したコンテナ
左の写真(pho.6)は、秋の草原をイメージして作ったものです。
ススキやハギ、ワレモコウなどの草花の中に実際には出現しないトウガラシやビデンス(ウィンターコスモス)を加える事で、より暖かみがある作風になります。
10月も下旬を過ぎると、朝晩ずいぶんと寒くなり赤や橙色のものが恋しくなってきます。
右の写真(pho.7)はウンシュウミカンを中心の植物に据え、赤実のソラナムやチェリーセージ、ノコンギクやグラス類とともに寄せ植えしたコンテナです。
お客さまをお迎えする玄関先などに、とても存在感のあるフォーカルポイントになるコンテナです。
(参考)このコンテナは園芸ガイド2009年秋号に掲載されています。実を使った秋の寄せ植えのテクニックが様々に紹介されています。
Pho.7 ウンシュウミカンを中心に据えた晩秋の実ものコンテナ
Pho.7 ウンシュウミカンを中心に据えた晩秋の実ものコンテナ
私は、魅力がない植物はほとんどないと考えています。
たとえば、梅雨入りのころに純白の花を付けるドクダミでさえも、むしむしする季節にはコンテナ材料として、十分に名脇役を演じる事が出来ると思います。
今回は「デザイン フロム ネイチャー、デザインも自然に学べ」という視点でおしゃべりしてみました。
 
Bloom Field
株式会社アイ・アンド・プラス Bloom Field事業部